宣教師の週報コラム 使徒的伝統に立って福音書を繙こう その2 

1953年のE.ケーゼマンの学会講演の主眼は、福音書を通して歴史的イエスを解明できるというものでした。 彼の提唱した方法は、まず福音書著者の叙述法を明らかにし、次にイエスの発言の記述から著者の手加えを削除する、そうすると著者が伝授した伝承が残る、それをもって実際のイエスに近づけるというもの。それに基づいて実際のイエスを解明する研究が増えていきます。ただ研究結果は大体において、イエスがいかにユダヤ教の伝統から外れた存在であるかを示す傾向が強かったと言われます。

歴史的イエス研究の大きな転換点となったのは1985年のE.P.サンダースの「Jesus and Judaism」(日本語訳見つからず)でした。彼の手法は、第ニ神殿期のユダヤ教社会の諸思潮を聖書外の文献からも明らかにして、そこにイエスの発言と行動を当てはめてみる、そうすると福音書に書かれている発言や行動の意味が今までと違ったふうに見えてくる、もう福音書著者や初代キリスト教徒が創作したなどと言わなくてもよくなるということです。ただし、彼の打ち出した歴史的イエス像は、罪人との食事は悔い改めを前提としなかったという主張などがあり賛否両論を引き起こしました。

これ以後、歴史的イエス研究は飛躍的に増加します。ユダヤ教社会の諸思潮の解明は、死海文書の解明や研究が進んだことも手伝って進みます。研究の拠点もドイツ語圏から英語圏に移ったと言われます。しかし、パンドラの箱を開けたような状態になりました。いろんな研究結果が無数に次から次へと出されたのです。アメリカのジーザス・セミナーのような、研究者が集まって、これは真正なイエスの発言、これは初代キリスト教徒の創作などと投票で決めるところも出ました。他方で、これは創作ではない、真正な発言と主張する研究結果であっても、イエスの発言の趣旨が福音書にある趣旨と180度正反対というものも多く出ました。その背景には、使徒や初代キリスト教徒は外の世界に対して挑戦的だったのでイエスの発言をそのように変容したという先入観がありました。そのため、研究者たちが打ち出した歴史上のイエスは、社会改革家、人権擁護者、フェミニスト、放浪哲学者、ヒッピーを思わせるものがいろいろ。あなたの好みに合うイエス様が見つかるかも(続く)

新規の投稿
  • 2025年12月14日(日)待降節第三主日 礼拝 説教 吉村博明 牧師
    主日礼拝説教 2025年12月14日 待降節第三主日 スオミ教会 イザヤ35章1~10節 ヤコブ5章7~10節 マタイ11章2~11節 説教題 「荒野のようなこの世にあっても、キリスト信仰者にとっては緑の大地の道を進むようなもの」 私たちの父なる神と主イエス・キリストから恵みと平安とが、あなたがたにあるように。 アーメン わたしたちの主イエス・キリストにあって兄弟姉妹でおられる皆様 1.はじめに […もっと見る]
  • 福音ルーテルスオミ・キリスト教会 クリスマスのご案内 2025年
  • 子どもの料理教室のご案内 12月20日10時30分~13時
  • スオミ教会・家庭料理クラブの報告
    今年最後の家庭料理クラブは12月13日に開催しました。今回はフィンランドのクリスマスの風味豊かなクリスマス・リース”Joulukranssi”とピパルカックを作りました。 […もっと見る]
  • 手芸クラブの報告
    12月の手芸クラブは3日に開催しました。その日は12月の初めにしては暖かい日でした。 今回の作品はフィンランドのクリスマス・オーナメント「オルキ・タハティ(藁の星)」です。材料はフィンランド直送の天然の藁です! […もっと見る]
  • 牧師の週報コラム
    宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」 vs. パウロ「ローマの信徒への手紙」12章 なぜ「雨ニモ負ケズ」とローマ12章を突き合わせるのか?私の個人的な経験が絡む話なので、以下は一つの信仰の証しとしてお読み下さい。 […もっと見る]
  • 歳時記
    アンデレクロス(アンデレの十字架) 白州の我が家の上空は定期便の通い路らしく冬の晴れ渡った青空を西に向かって幾筋もの飛行機雲がその軌跡を残して行きます。今まさに一機の西行きの定期便が青空を切り裂いて真っ白な雲を曳きながら驀進しています。暫くすると青空には大きなXの字が浮かびあがりました、このXは清泉寮のアンデレ教会の十字架でもあります。アンデレは死してもなお大空にその軌跡を残したと想いに耽っていました。 […もっと見る]