宣教師の週報コラム ニーニスト・フィンランド大統領の年頭スピーチを聞いて

写真 ユハニ・カンデル(Juhani Kandell)/大統領府

毎年1月1日にフィンランドの大統領はテレビで国民向け年頭スピーチを行う。 フィンランド語とスウェーデン語それぞれ15分ずつの短いスピーチだが、前年の国内外の情勢を振り返り、新しい年の歩みを始める国民一人一人が心に留めておくのが大事と考える視点を簡潔に提示する内容である。

今回はもちろんロシアのウクライナ侵攻が話題の大半を占めた。それは無理もないことだ。フィンランドをめぐる安全保障の環境は激変し、国是だった中立政策を捨ててNATO加盟を決めたからだ。テレビ・ニュースでも、ニーニストがウクライナ戦争を19391940年の冬戦争に、プーチンをスターリンになぞらえたことを公言したことに注目が集まった。

そういう対外的な大問題と併行する形で、国民の日常にも目を向け、こういう時だからこそ心に留めておくのが大事と考える視点を提示していた。今回、キリスト信仰の観点から見ても興味深いと思われる点を3つほど発見した。

一つは、ウクライナ戦争の影響で世界的に経済が失速し物価高、電力不足が深刻になる中、フィンランドは比較的に経済や福祉を維持できていることに関して。フィンランドが国際的に平均値が高いことに満足してはいけない。格差が拡大すれば、平均値の下側の人たちはより困難な状態に陥ることを忘れてはいけない。彼らの状況に目を向け支援を忘れてはいけない。

二つ目は、暗い事件は国外だけでなく、国内でも身近に起きている(クリスマスに礼拝中の教会が放火される事件が起きた、あとニーニストは国内の組織犯罪の増加に警鐘を鳴らしている)。悪の力は、一般市民をストップさせて不安に絡めて前に進むことができなくなるようにする力である。しかし、不安を抱きながらでも日常を続けることに努めることが悪に打ち克つことになる。

三つ目は、あまり聞きなれない言葉、人間はepeli olemusという言葉を使った。文脈から「意外な可能性を持つ存在」という意味だと思う。もう可能性などなくなってしまったというピンチの状態は実は、それまで自分にあると気づかなかった可能性に気づけるチャンスなのだ。フィンランド国民のシス精神はまさにそれだ。

以上の視点は、もちろんお上のお達しなんかではなく、受け入れるか受け入れないか、どう批評するかは聞く人の勝手というものである。(識者のコメントの中には、SDGsや気候変動についてもっと言及すべきだったというものがあった。)それでも、危機迫る国民に危機から目を逸らさせず、それを乗り越える共通の手がかりになるものを示し、しかもフィンランド国民なら乗り越えられると自信を与える内容になっていると言える。

因みにニーニスト大統領は年頭スピーチの終わりにいつも「神の祝福が皆さんにあるように」と結び、自身のキリスト信仰を表明する。今まで大統領によっては言わない人もいたが、ニーニストは言うのだ。

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