牧師の週報コラム

遠藤周作「沈黙」から帚木蓬生「守教」へ

(先週の週報コラムで和辻哲郎の「鎖国」と渡辺京二の「バテレンの世紀」について書いたら、礼拝後のコーヒータイムの席で遠藤周作の「沈黙」が話題になりました。それで今回はその時の話の続きとして)

昔、遠藤の「沈黙」についてある青年キリスト信仰者と話し合った時のこと。イエス様は自分を公けに主と認める者を神の御前で認める、しかし、拒否する者は神の御前で拒否すると言われた(マタイ103233節)。そこで、イエスを拒否しないとこの者たちは死ぬんだぞと、拷問に苦しむ人たちの声を聞かされたら、どうしたらいいのか?「沈黙」ではそれで棄教した宣教師があたかも自分こそが真のキリスト信仰者であるかのように気取って終わる。信仰を告白することが愛のなさになってしまうのはなんともやりきれない(遠藤は欧米キリスト教に一泡ふかせたかったのか)。

そこで考えたのは、はい、信仰を捨てます、と言って(表情は無念の苦渋を滲ませ、心の中ではあかんべー)、踏み絵を踏んでキリシタンの人たちを助けたら、また伝道と礼拝を始める、そしてまた捕らえられて同じ脅迫を受けてまた「棄教

する、そしてまた伝道と礼拝を始める、これを繰り返したらどうだろう。もちろん繰り返しなんかありえず、2回目でバッサリだとは思うが、どうせキリスト教徒でいることは死を意味する時勢なのだから。

帚木の「守教」はおそらくこの考え方と軌を一にしているのではないかと思った。潜伏キリスト教徒たちは確かに踏み絵を踏んで檀家制度に組み入れられた。しかし、彼らは独自の連絡網を築いて信仰の共同体を維持。宣教師が彼らに言う。殉教は宣教師のすること、信徒がすべきことは次に宣教師が来るまで何百年かかろうとも共同体を守ること。潜んだとは言え、キリスト教徒たちは全く安泰ではなかった。発覚すれば拷問と死罪。登場人物も言うように、薄氷の上を歩くのと同じだったのだ。氷が割れて落ちてしまった人たちも大勢いただろう。踏み絵を踏んだ棄教の宣教師は身の安全を保証されて余生を送れたが、潜伏キリスト教徒たちは全く正反対の境遇に置かれた。

「守教」の最終章は幾世代も続いた潜伏が劇的な展開を遂げて終息に向かう。もちろん、開国はしても禁教が解けるまで20年近くあるのでまだ波乱万丈は続く。しかし、200年以上に渡る苦難の歴史の終わりがやっと始まったという幕開けの感動が漲る。渡辺京二は日本と西洋とファースト・コンタクトとセカンド・コンタクトの間には断絶があると論じた。確かに国家レベルではそうだろう。しかし、この世界の片隅にあった連続性は認めてもいいのでは?「守教」には棄教宣教師に対する批判も出てくる。「沈黙」に対する見事なアンチテーゼの書だと思う。 

DSC_3767
新規の投稿
  • 2025年10月12日(日)聖霊降臨後第18主日 礼拝 説教 吉村博明 牧師
    主日礼拝説教 2025年10月12日(聖霊降臨後第18主日)スオミ教会 列王記下5章1~3、7~15b節 第二テモテ2章1~15節 ルカ17章11~19節 説教題 「いつどこででも主なる神に感謝するのは当然であり相応しい」 私たちの父なる神と主イエス・キリストから恵みと平安とが、あなたがたにあるように。 アーメン […もっと見る]
  • 子どもの料理教室のご案内 11月1日 10時30分~13時
  • スオミ教会 手芸クラブのご案内
    次回は10月29日(水)10時~13時に開催します。 フィンランド風の刺繍を作ってみませんか。 次の手芸クラブは、前回に続いて刺繡はフィンランド風の刺繡をします。 刺繡はフィンランドでは何世紀にもわたって親しまれている手芸の一つです。今でも多くの人気があります。小さなクロスステッチで作った花などの模様は服やインテリアに可愛らしい趣きを増やします。 […もっと見る]
  • フィンランド家庭料理クラブの報告
    秋の最初のフィンランド家庭料理クラブは10月11日に開催しました。小雨がぱらつく一日でしたが、教会の中は爽やかで明るい雰囲気でした。今回はこの季節にフィンランドの家庭でよく作られるリンゴ・ケーキを作りました。 […もっと見る]
  • 牧師の週報コラム
    ルターによる御言葉の説き明かし ― フィンランドの聖書日課「神の子らへのマンナ」10月9日の日課から 「ところで、今はあなたがたも、悲しんでいる。しかし、わたしは再びあなたがたと会い、あなたがたは心から喜ぶことになる。」 最後の晩餐の席で主イエスが弟子たちに述べた言葉から(ヨハネ16章22節) […もっと見る]
  • 歳時記
    萩(Hagi) <風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞くが、それがどこからきて、どこへ行くかは知らない。霊から生れる者もみな、それと同じである」 ヨハネ3:8> […もっと見る]