お気軽にお問い合わせください。 TEL 03-6233-7109 東京都新宿区早稲田鶴巻町511-4-106
老鯉(LaoLi)
<9 先にあったことは、また後にもある、先になされた事は、また後にもなされる。日の下には新しいものはない。10 「見よ、これは新しいものだ」と/言われるものがあるか、それはわれわれの前にあった世々に、すでにあったものである。11 前の者のことは覚えられることがない、また、きたるべき後の者のことも、後に起る者はこれを覚えることがない。 伝道の書1:9、10。11>
「解剖台上のミシンンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい」これは原作C.ボードレール(訳ロートレアモン)の「マルドロールの歌」の詩の一節です。この歌を切っ掛けに美術界に於けるシュールレアリスムの運動が始まりました。私の方は俎板ならぬ手術台の上に乗せられた老いた鯉と大きなモニタリング画面、それと対峙している二人の医師と手元の操作パネル。さらに二本の湾曲したアームが天球儀のように下の装置を覆いかぶさるように据えられています。その真下に老鯉が一匹横たわっています。やがて二本のアームが忙しく動き出したました。一本は縦方向に他の一本は横方向に動きます。それぞれにアームにはセンサーパネルが取り付けられています。突然、天頂からセンサーが私目掛けて急降下してきました。額の数センチ手前でピタリと止まりまたすぐ天頂目掛けて移動して行くと今度は横から滑るように他のアームが伸びて来て私の胸の辺りでピタリと止まりまたすぐに横にスライドして行きます。二本のアームが上下左右に天球儀の表面なぞる様に移動しながら私の胸の辺りを探っていました。やがて全てが止まり静寂の中で二人の医師が何やらぼそぼそと会話しています。思えばこれとよく似た装置がウクライナの戦場でも活躍しています。大きなモニタリングは小さなノートパソコンのサイズに、操作パネルは玩具のコントローラーに医師の代わりに兵士が、センサーパネルはカメラと爆弾を携えたドローンに老鯉の代わりに互いの戦車や兵士です。一方は人の命を救うために、もう一方は殺戮と破壊を目的に。なんと不条理な世界でしょうか。老いた鯉は手術台の上で大人しくなされるままに横たわっていました。会話が終わると再び天球儀が忙しなく動き回りました。暫くしてまた全てが止まって今度は胸の辺りに何か熱い物が注入されたような感じがしました。全てが終わり医師が私の所へきて13本目のステントが所定の位置におさまった事を告げてくれました。13本、凄いですね内訳は脳に8本、首(頸動脈)に1本、冠動脈に4本です。我ながら凄いなと感心していました。冒頭に載せた歌は偶然の出会いに美を感じさせていましたが現代の偶然の出会いに美を感じるでしょうか。ドローンに出会った兵士は死の恐怖を感じますし手術台に横たわった老鯉もまた恐怖を感じていました。(今回は此処まででこの後の集中治療室での修羅場についてはまた機会があればお話したいと思っています。)