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フィンランドの祝日「全聖徒の日」に想う
キリスト教会では古くから11月1日をキリスト信仰のゆえに命を落とした殉教者を「聖徒」とか「聖人」と称して覚える日としてきました。加えて11月2日をキリスト信仰を抱いて亡くなった人を覚える日としてきました。フィンランドでは11月最初の土曜日が「全聖徒の日」と定められ、殉教者と信仰者双方を覚える日となっています。国の祝日です。今年は昨日の11月1日でした。大方のフィンランド人はその日、教会の墓地にロウソクを持って行って墓に火を灯します。風で消えないようにガラスや耐熱プラスチックの瓶に入っているロウソクです。
日本ではお墓に花や何か贈り物を持っていくことを「供える」とか「供え物」と言います。フィンランド人も墓に花を飾りますが、「供える」という意識はありません。ただ飾るだけです。墓の前で手を合わせることもしないし、拝んだり、または見えない誰かに語りかけることもしません。墓はあくまで家族の記念碑です。日本では遺骨や位牌に魂が入っていると信じられるせいか、亡くなった方が今もまだ身近にいるような雰囲気があり、墓や仏壇がその雰囲気を作り出す役割を果たします。
キリスト信仰では、亡くなった方は思い出として残るので、故人の思い出/メモリーを尊重するということになります。フィンランドで墓にロウソクの火を灯すのは思い出をともし火のように輝かせることを象徴する行為と言えます。日本人の場合は尊重するのは故人の今ある魂とか霊になるので、現在も故人と繋がりがあることが意識されます。それなので、尊重するのが過去の思い出だけになってしまったら、故人との繋がりがなくなってしまうと心配してしまうかもしれません。しかし、キリスト信仰には復活の信仰があり、復活の日に懐かしい人と再会できるという希望があります。それで、あの方と共に過ごせた日々を何物にも代えがたい大切なものとして胸に留め、そのような方を与えて下さった神に感謝しつつ、復活の日の再会の希望が叶いますようにと神に願いながら、自分自身は復活の日に向かって今を生きるというスタンスになると言えます。それなので、キリスト信仰では墓は良き思い出の象徴であり、復活の再会の希望を確認する場になります。
全聖徒の日、白夜の季節が終わった北欧の暗い晩秋の闇の中に浮かび上がる無数のともし火は、あたかも黙示録7章に登場する「小羊の血で衣を白くされた大群衆」を彷彿とさせます。(2023年11月5日のコラムに加筆修正)