宣教師のコラム   キリスト信仰者と戦争 - フィンランドの視点

126日はフィンランドの独立記念日。毎年その日のニュースに必ず出てくるのは、 「あなたにとって独立は何を意味しますか?」と聞く街頭インタビュー。老若男女問わず必ず返って来る答えは「自由」である。この「自由」は、外国の支配からの自由だけではない。国内で自由と民主主義の体制が守られることも意味する。フィンランド人は第二次大戦で両方の自由を守ったという自負が強くあるのだ。(そう言うと、あれっ、フィンランドは枢軸国ではなかったの?と疑問に思う人が出てくるかもしれない。フィンランドは実は戦時中も国会は社会主義政党から保守党まで揃う議会制民主主義が機能していた国だったのだ。そんな国がなぜ後半はナチス・ドイツ側に立って戦うことになってしまったかについては、国際政治史の専門家に聞いて下さい。私も少しは説明できます。)

 この自由を守ることは国民の義務で、場合によっては武力を用いてでも守らなければならないということを示すのが徴兵制である。パイヴィの兄弟姉妹たちの男の子たちも高校を卒業すると皆、大学入学前までに当たり前のように兵役を済ませていた。二重国籍の息子にも”召集令状”が来たが、障害があるため医師の診断書で免除となった。女性は志願制だが年々増加しているという。予備役の再訓練の参加率も高まっていて、2014年のロシアのクリミア半島併合以来の傾向だと聞いた。

 ところで、キリスト信仰者が銃を取ることは許されるのだろうか?国教会の堅信礼教育で十戒を教える時に問題になるところだ。第5戒「汝殺すなかれ」。教師を務めた時、私はいつもその項目の担当を外してもらった。フィンランドの中学2年の子供たちに外国人の私が、銃を取って宜しいとか、逆に兵役は罪を犯すことになるとかとても言える立場ではない。

 最初の堅信礼合宿の時、この問題で牧師と夜遅くまで話した。彼は次のように自分の立場を説明した。ローマ13章などにあるようにキリスト信仰者はこの世の権力に従うことを基本とする。ただし、使徒言行録419節などにあるように、神の言うことと権力の言うことが対立したら聞き従うのは神である。第2次大戦はフィンランド国民にとって、まず権力が銃を取るよう命じたので従ったという面がある。それと、敵国のソ連という国は、もし占領されてしまったら信仰の人生が不可能になってしまう相手であったという面がある。彼は授業でも、自分はこのように考えていると、押し付けるのではなく自分の考え方を紹介する仕方で子供たちに語っていた。僕はこう考える、あとは君たち自身で考えてみてくれ、という具合に。そうは言っても、牧師の説明はフィンランドのキリスト信仰者の間では広く共有されていると思う。

 しかしながら、フィンランド国民の90%以上が国教会に属していた時代はもう過去になってしまった。私が牧師の話を聞いた頃はまだ80%台だった。昨年は66%まで落ちた。生まれてくる子供の洗礼率も今では半分位だそうだ。この傾向が続けば2040年には国教会の所属率は50%を切るということだ。兵役の是非を考える際にかつてのように信仰と関連づけて考えることは、もう一般的ではないのかもしれない。それでは彼らは今、何に関連づけて何に拠って考えるのだろうか?かつては神のみ言葉が価値でそれを自由と民主主義が保証していたのが、今は自由と民主主義自体が価値になったということか?

新規の投稿
  • 2025年5月4日(日) 復活節第三主日 礼拝
    司式・説教 吉村博明 牧師 聖書日課 使徒言行緑9章1~6節、黙示録5章11~14節、ヨハネ21章1~19節 説教題 「現代日本における神の愛と栄光を表す生き方に関する一考察」 讃美歌 92、322、338、255、384 特別の祈り 全知全能の父なるみ神よ。 […もっと見る]
  • 歳時記
    杜若・カキツバタ・Kakitsubata <15 人は、そのよわいは草のごとく、その栄えは野の花にひとしい。 16 風がその上を過ぎると、うせて跡なく、その場所にきいても、もはやそれを知らない。 詩編103:15・16> […もっと見る]
  • 牧師の週報コラム
     ルターの聖句の説き明かし(フィンランドの聖書日課 「神の子らへのマンナ」4月17日の日課 「その一人の方は全ての人のために死んでくださった。その目的は、生きている人たちが、もはや自分自身のために生きるのではなく、自分たちのために死んで復活してくださった方のために生きることなのです。」(第二コリント5章15節) […もっと見る]
  • 手芸クラブの報告
    4月の手芸クラブは23日に開催しました。暖かい雨の日で梅雨を思わせる陽気でしたが、今は色んな花が咲いているので、とても美しい季節です。 今回の作品は前回に続いてバンド織りのキーホルダーです。はじめに前回と同じように参加者がキーホルダーの毛糸の色を選びます。選んだ毛糸でどんなキーホルダーが出来るか楽しみです。 […もっと見る]
  • スオミ教会・フィンランド家庭料理クラブのご案内
    5月の料理クラブは10日(土)13時から開催します。 今フィンランドでも春の季節が深まってきています!5月の料理クラブではフィンランドの伝統的なドーナツ「ムンキ」を作ります。表面はサクサク、中身はソフトな甘いムンキの秘密はプッラの生地で作ること。 […もっと見る]
  • 子ども料理教室の報告
    子ども料理教室は4月19日に開催しました。この日はちょうどイースター/復活祭の前日だったので、みんなでイースター・パイナップル・マフィンを作ってイースター・エッグの飾りつけをしました。 […もっと見る]
  • 2025年4月27日(日)復活節第二主日 礼拝 説教 木村 長政 名誉牧師 (日本福音ルーテル教会)
    私たちの父なる神と、主イエス・キリストから恵みと平安があなた方にあるように。 アーメン 2025・4月27日(日) 聖書:ヨハネ福音書20章19~23節 説教題:「聖霊を受けよ」 […もっと見る]